AIによるエネルギー需要増の中、投資家はアジア電力会社の気候対策前進を確認

1 October 2024
気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC)が本表した最新レポートは、アジアの主要エネルギー企業が今年、ネットゼロという難題の達成に向けて重要な進歩を遂げたことを明らかにしました。

最新版レポートを発表したAIGCCの「アジア電力会社エンゲージメントプログラム」(英語)には、運用または助言対象資産の総額が11兆ドルにも達し、アジア地域で大きな影響力を持つ機関投資家20社が参加し、以下の電力会社を対象にエンゲージメント活動を進めています。

  • インドネシア:PTプルサハアン・リストリック・ネガラ(PLN)
  • 中国:華潤電力、華能国際電力
  • 日本:電源開発(J-POWER)、中部電力
  • 香港:CLPホールディングス
  • マレーシア:テナガ・ナショナル

高排出量の継続が引き起こす気候変動の損害は、広範な経済成長や顧客・受益者の利益を脅かすため、アジアのエネルギーシステムの脱炭素化は、投資家にとって非常に優先度の高い課題です。

予想される産業全体のエネルギー需要の増加は、AIによりさらに加速すると見込まれており、このセクターの排出係数削減の重要性が高まっています。

報告書を読む(英語)

AIGCCのレベッカ・ミクラ・ライトCEOのコメント:

「2024年に入って、アジアのトップ電力会社は、石炭の段階的廃止に関して過去に比べてはるかに積極的になっており、来たるネットゼロ経済における事業の発展に向けて準備を進めています」

電力会社の進捗状況ハイライト

  • 企業は短・中期的計画の詳細内容の開示を開始し、石炭火力発電所の段階的閉鎖を含む移行計画を開示する企業も出ています。例えば、日本では、J-POWERと中部電力がどちらも2030年までに石炭火力発電所を廃止すると発表しました。
    • J-POWERは、CO2排出量を2013年比で46%削減する目標の一環として、2030年までに最大5基を閉鎖する計画です。
    • 中部電力は、2030年までに非効率な石炭火力発電所(超臨界圧以下)をすべて閉鎖すると宣言しました。両社とも、再生可能エネルギー容量増加を掲げ、手始めにアンモニア混焼技術を2030年代に本格運用するとしています。
  • 企業は2030年の中期的気候目標達成に向けて、これまでより詳細な、個別資産レベルでの脱炭素化目標の設定に着手しています。
  • 本プログラム対象の電力会社のうち2社は、保有資産の物理的レジリエンスに関する戦略を公開しました。
    • 香港のCLPでは、執行役員および上級管理職の業績評価や報酬を、科学に基づく温室効果ガス排出量削減目標および石炭関連資産の段階的廃止と連動させました。トップ企業は、役員報酬を気候目標に関連づけています。例えば、

しかし、アジア経済の炭素排出量は、現在も重大な経済的損害を引き起こすシナリオを辿っているため、AIGCCのアジア電力会社エンゲージメントプログラムでは、今後1年間も引き続き以下の優先項目に焦点を当てて活動します。

  • 再生可能エネルギーへの移行加速
  • 石炭の段階的廃止へのコミットメント拡大と実施加速
  • ガスへの依存を最小限に減らすため、明確な政府政策や企業戦略が必要であることを強調
  • 投資家、企業執行幹部および政策決定者の連携促進
  • 気候変動による物理的損害や事業への支障に対する電力会社のエクスポージャー分析・対応

AIGCCのレベッカ・ミクラ・ライトCEOのコメント:

「AIGCCのアジア電力会社エンゲージメントプログラムが今年達成した成果は、対象を良く絞った強力なスチュワードシップ活動が効果的であること、また投資家のフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)に欠かせない要素であることを示しています。

高排出企業とのエンゲージメントが最大の効果を発揮するのは、政策に関するエンゲージメントの一環として実施した場合です。それは、ロードマップを策定し、システム全体を通して企業に対する経済的インセンティブを設計するのは、政策決定者の役割だからです。

早急に再生可能エネルギーへ移行したエネルギー会社は、競争力を維持し、座礁資産の発生を回避し、またエネルギー市場において高リスク・高コストセグメントであるガス火力発電への労働力配分を避けることができます。

このプログラムの開始以来、議論の内容は、石炭火力発電所の新規建設にコミットしないよう企業に対して要請するという段階から、特定期間内に既存の石炭火力発電所を段階的廃止する計画の実施というレベルに進化してきました。

本プログラムの成功を見て、この重要なエンゲージメント活動への参加に興味を示す投資家も増えており、こうしたサポートの増加に支えられて、この重要な活動を加速し続けることができていることを、大変嬉しく思います」

アジア電力会社エンゲージメントプログラム、引き続き拡大

本プログラムは、2022年に発表した前回の投資家声明以来、新たにアバディーン(abrdn)、国泰人壽(キャセイライフ)、リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)、ライオン・グローバル・インベスターズ、ニューバーガー・バーマン、シータウン・ホールディングス、サン・ライフ・ファイナンシャルの7社の機関投資家を迎えました。参加投資家(すべてAIGCCメンバー)は、合わせて11兆ドルの資産を運用・投資助言しています。

開始4年目の今年、本プログラムを通して活動する投資家は、引き続きクリーンエネルギー技術の導入に関して対象企業と取り組みを進めると共に、石炭資産の段階的廃止がもたらす経済面などの利益を指摘していきます。AIGCCは今後も、対象企業、政策決定者、投資家の間における政策レベルのエンゲージメントを促進し、再生可能エネルギーの採用拡大に取り組みます。

本プログラムはまた、アジアにおいてクライメートアクション100+が現在進めているエンゲージメントの取り組みを引き続き補完し、アジアの電力会社の気候リスク管理・軽減に関して、投資家がより効果的に働きかけることができるよう支援していきます。

参加投資家の声

アムンディ、ESGリサーチ・エンゲージメント・議決権行使グローバル責任者、カロリン・ル・モー氏のコメント:

「日本のグリーントランスフォーメーション政策と産業分野別ロードマップは、日本が2050年までにカーボンニュートラルを達成できるよう、エネルギー移行の取り組みを加速することを目指しています。当社は、個別の活動およびAIGCCを通した投資家協働の両方を通して、日本の電力会社と積極的にエンゲージメントを行っており、近年は取り組みの前進を目にしています。

今年の進捗レポートからは、複数企業が透明性を大きく改善し、野心的な目標と統合投資計画を策定し、移行技術がもたらす機会と課題を認識したことが分かります。当社では、投資家と企業の間で質の高い対話を粘り強く進めることが、経済に真の変化をもたらす、強力でレジリエントなビジネスモデルや実践の土台となると考えています」

日興アセットマネジメント、ステファニー・ドゥルーズ社長のコメント:

「アジア地域では協働エンゲージメントが盛んになっており、AIGCCのアジア電力会社エンゲージメントプログラムは、協働を通じてエンゲージメントを深める貴重な手段になりました。

日本の大手電力会社は、日本ならではの革新の精神を活かし、技術進歩により変革を進めていく必要があり、当社は、AIGCCを通してこれらの企業の経営トップとエンゲージメントを進めてきました。国内外の投資家と強固に手を組むことにより、脱炭素化について建設的な対話を行うことができました。日本国外でもこれは同じで、企業、そして規制当局などの主要なステークホルダーとエンゲージメントを行い、協働が生み出す力を活用しています。

前進していることは賞賛に値するものの、世界で温暖化が進む中、現状に満足してはいません。協力してアジア地域の脱炭素化を加速し、新たな基準を打ち立てていければと期待しています」

三井住友トラスト・アセットマネジメント、菱田賀夫代表取締役社長のコメント:

「本プログラムにおいて、過去1年を通じ日本の電力会社が達成した前進に励まされています。

2030年、2050年の排出量削減目標を達成できるようにするためには、この勢いをさらに加速し、石炭火力発電所の段階的廃止に焦点を当てる必要があります。

当社のフィデューシャリー・デューティーと合致する投資スチュワードシップの実効性を確信しています。他の投資家との協働により、企業と直接手を組んで、クリーンエネルギーソリューションの開発を加速し、日本国内外にサステナブルなエネルギー環境を構築していくことができればと期待しています」

——–以上——–

*アジア電力会社エンゲージメントプログラムには、ネットゼロ・アライメントの達成を目標とする資産運用を選択した顧客の代理として行動している投資家がいくつか参加している。

プログラムの背景

本プログラム4年目に参加する投資家、スチュワードシップサービス会社(すべてAIGCCメンバー):

  • アバディーン(abrdn)
  • アムンディ
  • BNPパリバ・アセットマネジメント
  • 国泰金控(キャセイ・フィナンシャル・ホールディング)
  • 国泰人壽(キャセイライフ)
  • イーストスプリング・インベストメンツ
  • EOSフェデレーテッド・ハーミーズ
  • フィデリティ・インターナショナル
  • フラトン・ファンド・マネジメント
  • GIC
  • リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)
  • ライオン・グローバル・インベスターズ
  • マニュライフ・インベストメント・マネジメント
  • 日興アセットマネジメント
  • ニューバーガー・バーマン
  • りそなアセットマネジメント
  • シータウン・ホールディングス
  • 三井住友トラスト・アセットマネジメント
  • サン・ライフ・アセットマネジメント
  • UOBアセットマネジメント

上記の投資家は、アジア電力会社エンゲージメントプログラムの投資家の期待事項を通して、5ヶ国で以下の電力会社7社とエンゲージメント活動を行います。

  • 華潤電力(中国)
  • 華能国際電力(中国)
  • 中部電力株式会社(日本)
  • テナガ・ナショナル(マレーシア)
  • 電源開発株式会社(J-POWER)(日本)
  • CLPホールディングス(香港)
  • PTプルサハアン・リストリック・ネガラ(PLN)(インドネシア)

本プログラムはAIGCCが取りまとめており、グローバルイニシアティブであるクライメートアクション100+を補完し、並行して実施されます。 アジアの電力会社のうち現在クライメートアクション100+の対象となっている企業は、検討の対象から外されました。

参加投資家の2024年投資家声明ステートメントは、こちらでお読みいただけます。2021年の立ち上げ声明はこちらでお読みいただけます。また、2022年の立ち上げ声明はこちらでお読みいただけます。

AIGCCは2020年12月に、アジアの電力会社との気候変動に関するエンゲージメントについて、投資家のためのガイドを刊行しており、英語中国語簡体中国語繁体日本語韓国語でお読みいただけます。

プログラムの背景